早大仏文科卒
(財)デジタルコンテンツ協会会員
・日本舞台芸術振興会 第三回ダンス評論賞 「ノイマイヤー/ハンブルク・バレエ」佳作受賞
・テレビ朝日系列広島ホームテレビ制作ドラマ「遠い潮騒」脚本
質問内容
① なぜCG制作の仕事を選んだのですか?
② CG制作の楽しさは何ですか?
③ 透明体の繊細な表現が得意ですが、なぜ透明体を追求しているのですか?
④ CG制作で苦労したこと、大変なところを教えてください。
⑤ 世間に知ってほしいこと、伝えたいことはありますか?
⑥ 「クリエーター業界」全体としての提案、問題点等はありますか?
CG画像は、本物の画像より表現力がある
下の6枚の画像は、レンズを表現したものです。まずは見比べてみてください。
上部2枚(①②)はプロのCG制作者:山科さんの作品。残り4枚(③~⑥)は管理人の作品です。
① CG画像(山科様制作)
② CG画像(山科様制作)
③ 写真(管理人撮影)
④ 写真(管理人撮影)
⑤ イラスト(管理人制作)
⑥ イラスト(管理人制作)
す、凄すぎる!!こんな透明感は表現できない!!
まず気が付いて欲しいのが、透明体がめちゃくちゃ表現が難しいということ!
難しい理由は、光と影のバランス、ライティング、アングル。映り込み等。
そして、透明感と高級感。透明体から感じる繊細かつ存在感とその世界観。
レンズは瓶のような透明体とは違って更に難易度は上がります。
少しでも白色や反射を間違えれば、透明感が失われたり違和感が生まれます。
③~⑥は管理人の作品ですが、これでも沢山時間を費やしています。( ;∀;)
写真もイラストも表現の限界がある。
レンズの写真は、ライティング、映り込み、アングル、表面の汚れ等で表現に限界がある。高難度です。
イラストは、クリエーターの高い技術力、想像力、表現力が求められる。
ということで、透明体とレンズの表現の違いを聞いてみました。
ガラスとレンズの違いは大きくわけて2つあります。
ひとつは屈折率の違いです。もうひとつはガラスの材質の違いです。普通のガラスに比べてレンズはとても透明度が高いということがあります。普通のガラスは厳密にいえばレンズに比べてちょっと濁ってるともいえます。表現としてレンズに見えるかどうかは光の屈折感とガラスの透明感の質の高さ、非常に高級なガラスに見えるかどうかに左右されると思います。
これは管理人にとって驚きです。屈折率の違いやガラスの材質の違いは、CGとはいえレンズ本物と全く同じ現象です。
そしてこの屈折率の違いや材質の違いは、レンズ業界が悩まされる要因です。(笑)
つまりCGレンズに関しては、ほぼ本物レンズと同じ表現ということなのですね。
さて話は変わりますが閲覧者の中には製品PRに使用するなら管理人の作品でも良いのでは?と思う人がいるかもしれません。
だけどよく考えてみてください。例えばキヤノンやニコン、ソニーのカメラを買いたい人が③~⑥の画像で心に響きますか?高級なカメラが欲しいのに、これでは高級感がなく不信感を与えてしまうのです。高品質、高精度のイメージが湧きません。
ここにデザイン、クリエーターの力が必要なのです。製品のブランド力を強化できるのです。
なおレンズに関しては、経験上CG制作が一番表現力豊かで、コントロールしやすいです。自在なアングルも大きな要素。
下記の回答にもありますが、自由度が高いというのは想像力をさらに豊かにさせてくれます。
管理人は山科さんと初めて出会った時、もう一目惚れ状態! (笑)
即決で仕事を依頼しました!!
ここからはQ&Aです。
Q & A 管理人からCG制作者「山科久夫さん」へ質問
回答日:2021年12月
もともとTV-CM製作会社で実写映像の企画と演出をしていましたが、CGの強い表現力に興味を持ち、自分でもやるようになりました。今も企画演出をやめてはいませんがCGは作業量が膨大なので、CGに向き合う時間が圧倒的に多くなりました。
日常会話では人を惹きつけるための表現はひとまとめに「演出」という場合もありますが、手順の面から考えると、「企画」と「演出」は別なもので「企画」を考える段階があって、その次に「演出」を考えるということになると思います。
例として、ある商品を広告する場合、性能を訴求するために製品の細部にクローズアップしたハードな表現にするか、あるいはタレントを起用してイメージ的に訴求するか、などまったく違う様々な表現方法が無数に考えられます。ここで方向性の違うアイデアを沢山出す作業が「企画」です。ここでできるだけ今までにない良い視点を発見できるかどうかが勝負といえるので、ありきたりな表現になっていないか、もっと全然違う考え方はないか、などを念入りに検討します。
「企画」が決まったらそれをどうやって効果的に実現するかが「演出」です。
たとえば料理の話におきかえてみると、お客さんをもてなすのに日本料理がいいか中華かフレンチか?はたまた誰も知らないナゾの料理か?と考えるのが「企画」で、テーマが日本料理と決まったら、日本料理の魅力をしっかり出す工夫をさまざまに凝らす料理人の仕事が「演出」だと思います。
なるほど。とても重要なことを仰っています。企画と演出は別物で企画次第で演出が色々変わる。広告戦略は、企画の視点やアイディアが最も重要な部分で商品の成功のカギになるのですね。貴重なお話を有難うございます。
実写では難しい表現が可能なことです。実写撮影はスタジオ費や大勢のスタッフ、高価な機材など莫大な予算が必要なうえ、思い通りの映像にするのはなかなか難しい。それがCGだとかなり柔軟に狙い通りのイメージのコントロールができます。ただし、基本的には実写の方が豊かな表現なので、実写をお手本として学び懸命に作る感じです。
理由は自分でもわかりません。なんとなく気持ちが自然に透明なものや液体に目が向きます。そもそも水のCGが作りたくてCGをはじめました。透明感の表現は古来から高級な工芸品や装飾に必ずありますから透明なものへの特別な感情は多くの人が共通して持っているものだと思います。水のCGについて「じっと見入ってしまう」「ずっと見ていられる」等の感想をいただくことが多いです。人間の生理的な根源になにか理由があるような気がしてます。
高い品質のCGを作る際にはレンダリングに膨大な時間がかかります。1秒の映像の完成に丸1日かかることもあります。思ったような映像になるまで何度も試行錯誤するのでその時間に耐える我慢強さが必要になります。また光の振る舞い方など光学的、物理的な知識や、伝統的な美術の勉強も必要です。さらに技術の進化が非常に速く、機材もソフトウエアもあっという間に新技術に変わります。そのため新技法を習得するトレーニング時間が大量に必要になり、追いついていくのが大変です。
毎年、PCの能力は高まるので処理も早くなっています。その一方で、世の中のクオリティに対する要求レベルも年々高くなっていきますので、結局、長時間作業はいつまでも解消されないような気がしています。最終的な動画のレンダリングなどは性能の高い一台があっても間に合わないことも多々ありますので、最近はネット経由で数百基という大量のCPUでレンダリングを行うクラウドレンダリングというサービスが増えてきています。
す、数百基の大量CPUでレンダリングですか!?これは驚きです。
クオリティを上げるというのは大変なことなのですね。そこに対応できるかどうかが今後生き残れるかどうかの違いになってくるのかもしれない。CG制作料金が高いというのは、見えないところでお金が本当に掛かっている。綺麗、クオリティが高いというのは、制作者の表現能力だけでなくPCのハードウエアも左右されているということを忘れてはいけない。お勉強になりました。
システムの進化でCGは最近は割合早く作れるようになってきました。ただ、質の高いCGはやはり研究時間とレンダリング時間がそれなりに長く必要で、大変時間がかかるタイプの作業であることは理解していただきたい点です。その一方で、CGは自由度が高く、アイデア次第で様々な表現ができますので、“こんなことできる?”という「遠慮のない注文」を歓迎しています。技術的に難しくても、内容が斬新で新しい発想新しい発見のある仕事はとても興味深く、やる気がでます。
クリエイティブな仕事はやり方が定型的に決まっているわけではなく、その都度「作り方」から新たに開発していくものですので、予算に応じて手加減する等の器用なことができず、結局は全力尽くすしかないという場合が多いです。
今の時代、案件の予算はケースバイケースで千差万別です。もし低予算であってもクリエイターとしてはちゃんとした成果物を作りたいですからなんとかするわけですが、そこにちょっとした悩みを持つクリエイターの人は多いと思います。もっともこれはどの業界でも同じかと思いますが。
残念ながらバランスをとる秘訣はあまりないと思います。経済的効率を過度に考えると「良いもの」はやはり作ることができませんので、無理はつきものです。「予算相応の出来」にしようとすると相応以下のものになってしまうことがあります。「頼まれてもいないのに遠くの産地へ良質な食材を仕入れにいく料理屋」のような姿勢が必要で、これは他のどんな業種でも同じだと思います。バランスを取るカギはその仕事が好きかどうかという事かも知れません。
基本的にはまず頭に浮かんだ映像を画コンテにしていきます。
この時できるだけ絵に描きます。
技術的にどう作るかは一旦おいておいて自由に構成を考えます。
絵は雑でもよくてとにかく絵にします。
これは時間を置いて見た時に、すぐ思い出せるようにするためです
絵にしないと結構忘れます。
逆に自分ができる技術をベースにアイデアを考えるという場合もあります。
これだと確実に作れます。
ただこの方法は「自分が知ってる方法しかやらない」ので
発想が狭くなる危険もあります。
あと、映画などでは大変重要な考え方なのですが、
意味や構成を無視して、とにかく自分が作りたいイメージを思い浮かべ、
あとからそれに理窟をこじつけていく、という方法があります。
無理やりのこじつけでいいのです。
えてして、理窟から順番に、説明的に構成を作っていくと
意味はわかるけれど、魅力はない、というものが出来上がります。
実はプロでも説明的に構成を作ってしまう人は多いです。
※追記
脚本とイメージのことに
関係するかどうかわかりませんが
数か月前にこんな映像を作りました。
「昭島市の地下を流れる深層地下水のヒミツ」
https://www.youtube.com/watch?v=1SJ8u0ebsys&t=4s
昭島市は水道がすべて地下水という珍しい市で
そのことを広報する映像です。
地下水の事をそのまま説明してもつまらないので
昭島市の名物、太古の化石が発見された「アキシマクジラ」と地下水を
合体したイメージ、水のクジラを創ろう、CGならできるから、
ということになりました。
私はCGを製作し、CG以外の編集・構成は別の人がやっています。
昭島市から「水のクジラを作ってくれ」と頼まれたわけではなく
自分たちがこれを作りたいと思い。勝手に作ったわけですが
市には評判上々でした。
昭島市のチャンネルは自治体の地味な広報チャンネルですから
ほとんどの再生回数はだいたい100回とか500回とかですが
これは2,4万回とけたはずれに多く、
やはり面白く見せるということは大切だなと思いました。
山科久夫さんの作品集
最新公開作品
山科久夫 CG作例集
※管理人コメント
山科さんの感性の豊かさと技術の高さが感じられるCG作品集。
金魚はまるで「空間」という水の中を泳いでいるように感じられます。
全てのシーンにストーリーがあり、見ている人が物語の中へ迷い込んでしまいます。山科さんの世界観を是非感じてくださいね。
SAKURA SAKURA (Short)
乱舞する桜のCGアニメーション。桜吹雪。サクラ花嵐。
※管理人コメント
桜の新たな一面が発見できる作品。
1枚の花びらのゆったりさから、沢山の花びらでダイナミックになり
音楽に合わせ緩急が感じられる。
無秩序でありながらそうでなかったり、
そして海の波のようだったり、生き物のように舞う。
Bloom/開花 春の水
水温む春。日に日に冷たさが和らぎ、やさしくなめらかになる春の水は生命を育む。
※管理人コメント
まるで生き物のよう。
水が秘めている力強さ、透明感、清涼さ、女性さ、移り変わり、可能性、奥深さ等感じます。その印象は視聴者の感性によって違うのもこの作品の醍醐味。VRでもこの世界観を感じてみたい。誰か叶えてくれないかな~?是非一度ご覧ください。
CGグラフィック http://www.nagori.jp/graphics.html
ムービー
Lost in reverie つかの間の幻影
ASTEROID PROBE ━小惑星探査機━
オリジナル短編(2分40秒)
・第9回こどもアニメーションフェスティバルで上映
・渋谷区旧総合庁舎 Art Event「シブヤのタマゴ」にて上映
Water Water Vol.1
オリジナル短編
・2015年 渋谷区旧総合庁舎 Art Event「シブヤのタマゴ」にて上映。
Water
働く現場の「生の声」